
「桜を見る会」~Aさんと春の約束~
2025.04.26
Aさんは、腰の圧迫骨折と大腿骨の手術後、日常生活動作が低下し、ベッド上での生活が続いていました。訪問看護が介入して数年が経ったある秋の日、Aさんがポツリと呟いた一言が、私の心に響きました。「桜が見たいな」。何年も外に出られず、四季を肌で感じることができていないというAさんの言葉に、私は即座にこう答えました。「行きましょう。来年の春、桜を見に行きましょう!」
Aさんの顔に希望の光が灯りました。「行けるかな、行けたら最高だね」と笑顔で応えるAさん。私たちは、車椅子に乗る時間を増やし、筋力を維持するためのリハビリを頑張ることを約束しました。それから訪問のたびに、私たちの合言葉は「春に桜を見る」に。車椅子に乗るのがつらい日も、Aさんは「桜を見ないといけないもんね」と自らを励まし、懸命にリハビリに取り組む姿に、心を打たれました。
時は流れ、4月。桜の開花を心待ちにしながら、天気予報とにらめっこする日々。Aさんの娘様とも協力し、桜を見る日と場所を決め、ついに当日を迎えました。Aさんの体調は良好で、普段のリハビリの成果もあり、車椅子にもスムーズに乗ることができました。満開の桜を前に、Aさんは目を輝かせながらこう言いました。「最高な誕生日を迎えることができたよ。これ以上ないね」。実は、偶然にもこの日はAさんの誕生日だったのです。
お祝いも兼ねて、桜を背景に撮影した写真をボードにしてお渡しすると、Aさんは笑顔でこう話しました。「これ見て、来年も行けるように頑張らないといけないね」。その言葉に、Aさんの前向きな姿を感じられました。
私たちにとって「桜を見る」ことは当たり前のようですが、Aさんと過ごしたこの時間は、当たり前を特別な瞬間に変えてくれました。Aさんを通じて、日常の小さなことに感謝し、一瞬一瞬を大切に生きることの意味を改めて教えられた気がします。
Aさん、来年も一緒に桜を見に行こうね!その日を心から楽しみにしています。
つむぐ看護師
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